養育費

養育費とは

 養育費とは、子を監護している監護親から、非監護親に対する未成熟子の養育に要する費用をいいます。

 親権者ではない親も、子に対する扶養義務があることから(民法877条1項)、親権の有無にかかわらず、子の養育費を分担する義務があります。

養育費の決まり方

1 はじめに

 養育費の金額については、父親と母親で、合意できる場合には、その合意によります。もっとも、下記の算定表を参照して、決めることもあり、調停・審判・訴訟になれば、下記の算定表が基本になります。

 

2 養育費の算定表

 支払うべき養育費の算定については、現在、東京・大阪養育費等研究会の提言にかかる「養育費・婚姻費用の算定方式と算定表」(判例タイムズ1111号285頁以下)に基づき、裁判所では運用がなされています。

 この算定表については、東京家庭裁判所のホームページでも見ることが可能です。リンクを貼っておきます。

 

 この算定表によって、養育費の金額を簡単に算定することが可能となりました。

 

 なお、この算定表に代わるものとして、日弁連が新しい提言をしていますが、裁判実務に受け入れられてはいません。

 

 養育費の算定には、夫婦の収入を源泉徴収票や確定申告書等の資料によって把握し、これをもとに算定表に当てはめていくことになります。  

算定表における収入の問題

 算定表における収入の問題については、「婚姻費用」の「算定表における収入の問題」の個所の参照をお願いまします。

養育費の算定において検討すべき特別事情

1 養育費の算定と住宅ローンの負担

(1)問題の所在

算定表では、標準的な住居関係費を考慮した上で、養育費の金額が算出されます。しかし、自宅不動産の住宅ローンの支払い額は、算定表が前提としている標準的な住居関係費よりも高額な場合が多く、養育費の支払い義務者が、住宅ローンを負担している場合、その負担が大きすぎる場合があります。

 

(2)基本的には、考慮する必要ない

 夫婦の婚姻中に所得した自宅不動産の住宅ローンは、基本的に考慮する必要はないとされています。

 これは、このような自宅不動産の住宅ローンは、本来、離婚に伴う財産分与において清算されいるはずであり、離婚後の養育費の算定に当たって考慮する必要がないと考えられているからです。

 

(3)考慮すべき場合

 離婚に伴う財産分与による清算が完了していない場合、自宅不動産がいわゆるオーバーローン状態で、清算することなく、養育費の支払い義務者がそのまま住宅ローンの返済を続けていくことを前提に離婚した場合、養育費の算定に当たって住宅ローンを考慮することが相当な場合もあるとされています。

 

 これは、次のような理屈になります。

 すなわち、夫婦の婚姻中に所得した自宅不動産の住宅ローンは、実質的には、夫婦共同の債務であるといえます。

 そして、離婚に伴う財産分与による清算がされていないのに、養育費の支払い義務者となった夫婦の一方のみが自宅不動産の住宅ローンの返済を続けることは、養育費の権利者が、本来負担すべき住宅ローン債務を、養育費の支払い義務者だけが負担することになります。これは、不公平だからです。

 

 そして、このような場合の算定方法として、住宅ローンの支払い額を特別経費として控除する方法が提案されています。

 

参考文献

 岡健太郎「養育費・婚姻費用算定表の運用上の諸問題」判例タイムズ1209号9頁

 

養育費の支払義務の始期

1 裁判所が義務者に対して養育費の支払いを命じる始期

 この点については、色々と考えられますが、一般的には、原則として調停または審判を申立てた時としつつ、内容証明郵便等により請求日が明らかな場合は請求日まで遡らせることも考慮するようです。

 

 これは、当事者の衡平の観点から義務者が権利者から累積した過去分を一度に請求されることになることについて一定の配慮をする必要があることや明確性を考慮したものと考えられています。

 

2 養育費の増減額請求における増減額の始期

 上記の扱いは、養育費の増減額請求における増減額の始期にも、妥当すると考えられます。

 

参考文献 秋武憲一監修 髙橋信幸・藤川朋子『子の親権・監護の実務』(青林書院、2015年)299~300頁。

養育費の実現方法

1 履行勧告

 調停・審判で養育費の支払い義務が定められたものの、義務者が支払いをしない場合、権利者の申出により、家庭裁判所が、義務の履行状況を調査し、義務者に義務の履行を勧告します。

 義務者の任意の履行を待ちます。強制的な担保はありません。

 平成29年度の司法統計では、金銭債務・その他の履行勧告事件数は13224件あり、そのうち、全部履行は4820件、一部履行は2197件となっています。

 

2 履行命令

 調停・審判で養育費の支払い義務が定められたものの、義務者が支払いをしない場合、権利者の申立てにより、家庭裁判所が、相当の期間を定め義務者に義務の履行を命じる審判をします。

 義務の履行を命じられた者が正当な理由なく命令に従わない場合は、家庭裁判所は10万円以下の過料に処することができます(家事事件手続法290条5項)。

 

3 直接強制

 養育費が支払われない場合、権利者が申立てて、義務者の財産を差し押さえて、強制的に満足を得ることになります。

 例えば、義務者が会社へ勤務するサラリーマンである場合、会社から義務者へ支払われる給与を差し押さえて、そこから、養育費を回収することになります。

 

 養育費の強制執行申立てには、平成15年の法改正により、特例として、今後確定期限が到来する将来分についても、義務者の給与債権等を差押えることが可能になりました。

 

 また、特例として義務者の財産のうち、差押禁止の範囲が公租公課を控除した手取り額の「4分の3」から「2分の1」とされています。

 つまり、養育費の強制執行の場合は、差押可能な範囲が通常の場合よりも、広げられているのです。

 

4 間接強制

 間接強制とは、債務者に対して、債務の不履行の場合に一定額の金銭を支払うことを命じることにより、心理的な強制を与え、債務の強制を与え、債務の履行を促すものです。

 

 そして、養育費は子の監護養育に不可欠で保護の必要性が高いこと等から、平成16年改正により、選択的に間接強制もできるようになりました。

養育費と成人年齢の引下げ

1 離婚調停などで、未成年者の養育費の終期を定めた条項につき、従前は「成人に達するまで」という条項も見られました。

 

 しかし、平成30年6月13日の民法の改正によって、2022年4月1日から成人年齢の引下げが行われます。

  

 そこで、将来の疑義を避けるため、今後は、養育費の終期については、例えば「子が満20歳に達する日の属する月まで」といったようになっていくと思われます。

 

養育費の変更

 一度決まった養育費の金額も、父・母の就職、退職などによって収入が変化するなど、調停・審判・判決の基礎となった事実関係に変化があり、実情に合わなくなったときは、従前の養育費の金額を変更することができる場合があります。

 例えば、下記に述べる父母の再婚などがあります。

養育費と父母の再婚

1 はじめに 

 養育費の権利者または義務者である父母が再婚したり、再婚相手との間で子どもが生まれた場合、養育費の権利者と義務者の状況が変化することから問題となります。

 実務上よくあるケースです。

 

2 養育費の支払義務者が再婚した場合

 養育費の支払い義務者が、再婚相手の連れ子と養子縁組をしたり、再婚相手との間に子どもが生まれた場合、法律上、養育費の支払い義務者にも養子になった子や生まれた子に対して、等しく扶養義務が生じます。

 そのため、養育費の支払い義務者は、扶養義務を負う子どもの数に応じて、養育費の算定表に従って養育費の金額を算定することになります。

 

3 養育費の権利者が再婚した場合

 権利者が再婚して、再婚相手が権利者の子と養子縁組をすると、この子に対する扶養義務は、第1次的に権利者と養親となった再婚相手が負うことになります。

 そのため、原則として、従前の養育費の支払い義務者は、養育費の支払い義務は無くなることになります。

 

 もっとも、養親の資力が乏しい場合は、実親である従前の養育費支払い義務者にも、子に対する第2次的な扶養義務があるとして、養育費の支払い義務を負うことになります。 

 

養育費の消滅時効

1 定期金債権としての養育費債権の消滅時効 

 養育費について、毎月一定額を支払うことになった場合、この養育費債権は定期金債権とされ、民法169条により、5年の消滅時効にかかります。

 

2 弁済期の到来した過去の養育費債権について

 弁済期の到来した過去の養育費債権について、確定判決と同一の効力を有するものによって確定した場合(例えば、調停、審判、訴訟上の和解など)、消滅時効の時効期間は、5年から10年に延長されます(民法174条の2第1項)。

 

3 弁済期の未到来の将来の養育費債権について

 弁済期の到来していない将来の養育費債権については、民法174条の2第2項により、消滅時効期間は、5年のままになります。

 

4 公正証書で過去の養育費債権の支払いを定めた場合

 公正証書で過去の養育費債権の支払いを定めた場合、その場合の消滅時効期間は5年間と判断される可能性があります・

 養育費ではなく、貸金の公正証書の場合についての裁判例として、東京高判昭和56年8月29日は、公正証書上の権利については、既判力は無いとして、民法174条の2第1項による消滅時効期間の延長を認めませんでした。

 しかし、確定判決と同一の効力を持ち、民法174条の2第1項により、時効期間の延長が認められる調停や審判には、既判力が無いことは、上記公正証書と変わらないことから、その理由には疑問もあります。

 そのため、実務では確立しているとはいえないという評価もあります(二宮周平・榊原富士子『離婚判例ガイド[第3版]』(有斐閣、2015年)265頁参照)。