年金分割

離婚時年金分割制度

 離婚時年金分割制度とは、厚生年金保険の被用者年金に係る報酬比例部分の年金額(いわゆる年金の2階部分です)の算定基礎となる標準報酬額等について、夫婦であった者の一方の請求により、厚生労働大臣等が、対象となる被保険者期間の標準報酬等の改定又は決定を行う制度です。

 

 年金分割は、支給される年金を分割するのではなく、保険料納付記録(いくら保険料を納めたかという保険料の総額)の分割するものです。

 

 例えば、厚生年金に加入して働いていたサラリーマン夫と、夫との結婚後専業主婦であった妻が離婚する場合、何もしなければ、妻は国民年金(年金の1階部分)の支給を受けることになりますが、離婚時年金分割によって、厚生年金の支給もできるようにするものです。

年金分割の対象年金・離婚

1 年金分割の対象になる年金

 離婚時年金分割の対象になるのは、厚生年金のほかに、共済年金も対象になります。

 国民年金は対象外です。そのため、国民年金だけの夫婦の場合は、関係ないことになります。以下では、厚生年金を念頭に説明します。

 

 なお、平成27年10月1日から、国家公務員、地方公務員、私立学校教職員も厚生年金保険に加入することとされましたが、各実施機関は従前のとおりです。

 

2 年金分割の対象になる離婚

 離婚時年金分割請求ができるのは、平成19年4月1日以降に離婚した場合に限られます。

 

 年金分割の対象は、婚姻期間全部になります。

分割方法・按分割合について

1 合意分割

 合意分割とは、当事者間の合意や裁判手続きにより分割割合を定めた場合に、当事者の一方からの年金分割請求によって、婚姻期間中に納めた保険料の額に対応する厚生年金を当事者間で分割することができる制度です。

 

 当事者間の合意による分割割合について、厚生年金保険法78条の3第1項で、分割割合範囲の上限と下限が定められていますので、その範囲での合意割合で分割することになります。具体的な按分割合の下限と上限については、「年金分割のための情報通知書」を入手すれば、確認することができます。

 

 この合意内容については、合意書・公正証書に記載し、年金事務所等へ提出し、改定請求をすることになります。

  

 裁判手続(調停、審判、離婚訴訟)では、分割割合が0.5とされます。これ以外の割合は、ほとんどありません。

 相手方の浪費や財産隠匿などは、財産分与等で考慮解決されることになります。

 

2 3号分割

 3号分割は、平成20年4月1日以降の第3号被保険者期間(特定期間)について、離婚をした場合、当事者の一方からの年金分割請求によって、第2号被保険者の厚生年金(共済年金)を2分の1に分割することができる制度です。

 こちらは、分割割合が0.5に法定されています。

 

 結婚したのが、平成20年4月1日以降の夫婦が離婚する場合は、この3号分割によって年金分割ができます。裁判手続きは不要です。

 

 離婚時年金分割については、日本年金機構のホームページの「離婚時の年金分割」でも解説がなされています。詳細については、リンク先も参照して頂ければと思います。

年金分割の請求期限

1 年金分割の請求期限の重要性 

 年金分割の請求期限は、原則として、離婚成立日の翌日から2年以内となります。

 

 この期間を経過してしまうと、年金分割請求は原則として出来ません

 

 後述しますが、按分割会が決まった後、年金事務所等への改定請求を上記の請求期限内に行う必要があります。

 そのため、離婚後、年金分割の合意があっても、上記の請求期間内に年金事務所へ改定請求を行わないと権利が無くなります。

 

2 請求期限の例外等

 さらに、上記の2年の請求期限以外にも、次のような例外ありますので、注意が必要となります。

 

①相手方が離婚後に死亡した場合、死亡してから1か月内に改定請求をしないと権利を失います。

 

②年金分割の調停成立・審判確定が離婚後2年経過後の場合、調停成立・審判確定から1カ月以内に改定請求をしないと権利を失います。

 

 このように年金分割の請求期間には、注意すべき点があります。

 請求期限についても、詳細は日本年金機構のホームページの「離婚時の年金分割」を参照して頂ければと思います。

年金分割での注意点

1 年金分割割合を定めた後の改定請求手続の重要性

 調停、審判、離婚訴訟で、年金分割の割合が定められても、そのままでは、将来年金分割対象の年金を受給することはできません。

  

 実際に利用できるようにするために、社会保険事務所等(共済年金の場合は、その共済組合等)で、年金分割のため改定請求の手続をする必要があります。

 この改定請求をすると、後日、「標準報酬改定通知書」が届き、実際に改定されたことがわかります。

 

 家庭裁判所の調停、審判、判決に基づいて自動的に手続がなされません。

 

 年金分割の割合を当事者間で定まったことで気を抜かないで、年金事務所等への改定請求手続きをする必要があります。

 

 なお、年金分割の按分割合に基づき改定された後は、後で取り消したりすることはできません。

振替加算と65歳離婚

1 振替加算とは

 夫が受けている老齢厚生年金や障害厚生年金に加算されている加給年金額の対象者になっている妻が65歳になると、それまで夫に支給されていた加給年金額が打ち切られます(加給年金額は、年金の家族手当のようなものです。)。

 そして、妻が老齢基礎年金を受けられる場合には、一定の基準により妻自身の老齢基礎年金の額に加算がされます。これを振替加算といいます。

 

 振替加算の金額は、例えば次のようになります。

  • 配偶者が大正15年4月2日~昭和2年4月1日生まれ 年額22万4300円 
  • 配偶者が昭和30年4月2日~昭和31年4月1日生まれ 年額5万916円
  • 配偶者が昭和41年4月2日以後生まれ 年額0円

 

2 65歳以降の離婚と振替加算

 上記の振替加算の受給要件として、その妻が老齢基礎年金を受給する資格を得たとき(満65歳到達時)において、大正15年4月2日から昭和41年4月1日までの間に生まれていること、妻が老齢基礎年金の他に老齢厚生年金や退職共済年金を受けている場合は、厚生年金保険および共済組合等の加入期間を併せて240月未満であることなどの要件を満たしている必要があります。

 そして、振替加算は、支給停止要件が無い限り、一生支給されます。しかし、振替加算支給前に離婚して場合、振替加算の支給はありません。

 

 このため、振替加算の支給開始となる65歳を待って離婚することを検討している人もいるかもしれません。

 

 しかし、振替加算の支給金額は、配偶者の年齢が若くなる毎に減少します。振替加算による支給金額に多くを期待できない面もあります。

  

 また、離婚時年金分割によって、年金分割を行った場合、振替加算の支給停止要件該当する可能性も考えられます。

 この場合、振替加算の支給金額よりも、年金分割によって受給でき年金額が多くなるのか否かも考える必要がありそうです。

 

 より詳しくは、日本年金機構のホームページ「加給年金額と振替加算」を参照して頂ければと思います。

さらなる詳細について

離婚時年金分割について、さらに詳細な情報を得たい方は、下記の日本年金機構のホームページを参照して頂ければと思います。