離婚慰謝料

離婚事件の慰謝料の種類

1 離婚自体慰謝料と離婚原因慰謝料

 離婚と一緒に損害賠償請求として慰謝料の請求がなされることが多くあります。

 この離婚の場合の慰謝料については、相手方によって離婚を余儀なくされたことを不法行為として慰謝料請求(離婚自体慰謝料)する場合と、婚姻破綻に至る特定の原因事実(暴力など)を不法行為に基づく慰謝料請求(離婚原因慰謝料)とがあるとされます。

 

 実際には、特定の原因事実を婚姻破綻の重要な一つの事情として、離婚そのものによる慰謝料請求(離婚自体慰謝料)がなされる場合がほとんどです。

 

2 離婚自体慰謝料

 離婚訴訟を念頭においた場合、離婚自体慰謝料については、遅延損害金の起算点が判決確定日又は判決確定日の翌日からとされます。

 また、仮執行宣言を付けることもできません。

 

 なお、弁護士が離婚訴訟の代理人となって、離婚訴訟を提起する場合、誤って仮執行宣言を申立てる例が多くみられます。

 

 そもそも、仮執行宣言は、確定前の判決に判決内容を実現する効力を与えるものです。

 離婚訴訟では、判決が確定して初めて離婚となります。

 そして、離婚に伴う慰謝料は、離婚することで生じるので、判決が確定しない限り離婚に伴う慰謝料は発生しません。

 そのため、仮執行宣言は不可となるのです。

 

3 離婚原因慰謝料

 離婚原因慰謝料について、遅延損害金の起算点は、当該不法行為の日となります。裁判実務では、一部請求として訴状送達日の翌日を起算点とするものが多いようです。

慰謝料算定の動向

 

1 はじめに

 慰謝料請求は、離婚訴訟手続に取り込まれていても、民事訴訟の対象となります。そのため、不法行為を認定できる証拠が重要となります。

 不貞行為や暴力の証拠になり得るものについては、離婚原因の個所を参照して頂ければと思います。

 

2 慰謝料の相場?

 慰謝料は、色々な考慮要素を踏まえて、裁判官が裁量で決めるもので、事件毎に異なるので、相場があるのか、正直わからない部分があります。

 

 この点、東京家庭裁判所家事第6部編著『東京家庭裁判所における人事訴訟の審理の実情(第3版)』(判例タイムズ社、2012年)86頁以下では、平成16年4月1日から平成22年3月31日までの既済事件の慰謝料額の金額別の統計が掲載されています。

 そこでは、300万円以下から100万円以下に多く集中しています。

 

 また、神野泰一「離婚訴訟における慰謝料の動向」ケース研究322号26頁以下では、平成24年4月から平成25年12月までの東京家裁で判決で終わった事件203件を対象に慰謝料につき、検討をされています。

 そこでは、一部でも慰謝料請求が認められたのは75件であり、認容率(慰謝料請求が判決で認めらた割合)は37%、平均認容額は153万円もっとも、多い認容金額は100万円、次が200万円とされています(上記文献31頁参照)。

 

 また、上記文献32頁では、分析として、

 慰謝料請求される事案は多いが、認められる場合は必ずしも多くないこと(認容率37%)、

 慰謝料請求が認められることが多いのは、不貞行為と暴力に関するものであること、

 精神的圧迫(暴言等)を理由とする慰謝料請求は多いが、認められることは少ないこと(認容率11%)、

などが指摘されています。

 

 次に、不貞行為が問題となる事件で、高額の慰謝料が認められるのは、不貞期間が長いもの、不貞相手が複数いるもの、不貞発覚後の不貞行為者の対応が悪いもの、婚姻後の同居期間が長いもの、未成熟子がいるもの、当事者に経済力があるもの、などの事情があるものが多いと指摘されています(上記文献33頁)。

 

 他方で、慰謝料が低額になるのは、不貞行為時に婚姻関係が破綻に瀕しているもの、婚姻関係の破綻に慰謝料請求者にも相応の責任があるもの、不貞の回数が少ないもの、不貞発覚後に不貞行為者が関係修復の努力をし、慰謝料請求者も一定の理解を示したものなど事情があるものが多いと指摘されています(上記文献34頁)。

慰謝料の時効

1 不法行為の消滅時効の原則

 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の原則は、損害および加害者を知ったときから、3年で、時効消滅してしまいます。

 

 そのため、離婚自体慰謝料は、離婚成立から3年で時効にかかります。

 

 他方で、離婚原因慰謝料は、その原因事実となる行為を理由とするものですから、その原因事実となる行為から、3年の時効にかかりそうです。

 

2 夫婦間の権利行使の時効停止(民法159条)

 民法159条は、「夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は完成しない」としています。

 そのため、離婚原因慰謝料の発生根拠となる不法行為が、離婚時期より3年以上前でも、離婚から6カ月を経過しないと、消滅時効は完成しないことになります。