家事調停事件の事件数は、現在も司法統計から伺えるとおり、増加傾向にあります。
また、周知のとおり、司法改革によって、弁護士数は激増しました。
しかし、家事調停事件の弁護士選任率は、低調です。
弁護士白書によれば、夫婦関係調整調停事件(離婚調停事件が典型です)における代理人弁護士の関与があった割合は20%台となっていたのが、2015年には43.9%に増加していますが、半分にも満たない状況なのです。
離婚問題を的確に扱える弁護士が、調停段階から、さらにはその前の離婚協議の段階から関与してくのが望ましいと思います。
といった、弁護士を代理人に選任するメリットもあるのですが、現状の代理人選任率は上記のとおりです。
子のいる夫婦の離婚事件を念頭に置いたものと思われる指摘として、次のようなものがあります。
「代理人弁護士の中には、家事事件の特徴を十分に理解することなく、家事事件を訴訟事件のように利益が対立する紛争類型と捉え、自己の主張の正当性を主張し、証明することに終始するものも少なくない。(中略)家事事件においては、紛争類型によっては、抗争する夫婦間に子がいるなど、紛争当事者以外の者の利益を考慮しなければならないこともあり、また、事件を抗争的にすることで紛争がこじれ、又は長期化してしまい、夫婦及び親子関係等の再構築が困難になることもある。」(秋武憲一監修 髙橋信幸・藤川智子著『子の親権・監護の実務』(青林書院、2015年)57頁)
また、代理人弁護士に対して「家族法や家事事件手続法等の理解や知識が不十分である弁護士も少なくない。また、知識等を有していても、調停制度を理解しようとせずに、訴訟提起を予定しているから、直ちに不成立として欲しいとか、調停ではなく、直ちに審判移行して欲しいなどとかたくなな態度をとる弁護士も少なくない。残念ながらこれが実情である。」(前掲書430頁)ともあります。
そして、家庭裁判所の裁判官が行った弁護士向けの研修においても、次のような指摘がなされています(水野有子「離婚請求と慰謝料請求の審理」東京弁護士会研修センター運営員会編『弁護士専門研修講座離婚事件の実務』(ぎょうせい、2010年)66頁以下)。
「私自身は、民事の経験が長いので、一部の弁護士の方に「人訴は簡単だ」と、思われている方がいるかなと思うことがあります。そこは誤解ですので、正確に民事訴訟法(以下、「民訴法」という)、人訴法、家事審判法、そして親族法の規定をよく理解された後、要件事実的発想を持ちながら、柔軟な発想を併せ持って訴訟活動をしていただきたいというのが、私の希望でございます。
若い方は、もし修習生の間に、親族法の勉強が不十分であるとか、民訴法を超えた人訴法の勉強をする機会がなかったという方がおられたら、親族法については、ともかく基本書的なものを読んで欲しいと思います。また人訴につきましても、民訴のほかに、たとえば『一問一答』という本でもいいので、そのようにまとまった本を読んでいただいた方が、かえって理解が早いかなと思います。かつ、なお経験豊富な方でも、ちょっと不安だなという方も読んでいただいたらいいなと思いますので、どうぞよろしくお願いします」(前掲文献70頁)
加えて、「平成28年度法曹連絡協議会速記録」関弁連会報108号90頁では、当時の東京家裁の所長からも「あえて意見を申し上げるということにいたしますと、まず家事事件につきましては、民事に比べますと手続に精通している弁護士が少ないと思われますし、家事事件は比較的経験年数の少ない弁護士が担当されることが多いように見受けられますので、そういったことからしますと、事件受任後の一連の手続のの基礎的な研修、特に家事事件手続法に即した手続の基礎的な研修をご検討いただければと思っております。」として、弁護士会が弁護士に対して実施すべき研修課題として指摘されています。
さらに、別の裁判官も次のような指摘をしています。
「離婚事件を受任している若手の弁護士の中に、家族法の知識が不十分な者が多くみられるようになってきた。離婚原因を定めた民法770条1項の中でも5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」が、抽象的であることが影響しているのか、「婚姻関係は理論的に考えずに感情ないし感覚の問題として処理すれば何とかなる。」という認識の下に、離婚事件を受任しているのではないかと疑ってしまう。」(柴崎哲夫・牧田謙太郎『裁判官はこう考える弁護士はこう実践する民事裁判手続』(学陽書房、2017年)46頁)
いずれも、代理人となった弁護士が家事事件、そして、その前提として、家族法や手続法といった法律に疎いことから生じているものでしょう。
弁護士が法曹資格を得るために受験する司法試験では、家族法はあまり出題されないのので、勉強してない方が多いと思います。
また、手続法についても、通常の民事訴訟を規律する民事訴訟法の勉強で手一杯で、人事訴訟法や家事事件手続法といった手続法については、全く勉強していないというのが実情だと思います。
このような状況の中で、弁護士になって、家事事件を扱うことが原因かと思われます。
そのため、弁護士なってからも、家事事件について、相応の勉強が必要となります。そうでなければ、上記の指摘に該当することになります。
ただ、弁護士業界でも知的怠慢が蔓延している傾向が危惧されるところです。
第1 離婚訴訟のはじめから間違えてしまう
1 訴状と請求の趣旨について
離婚訴訟に限らず、訴訟の提起は、訴状を裁判所に提出する必要があります。
この訴状は、訴訟の最初に裁判官を説得するための重要な書面です。訴状の出来が悪いと、訴訟のスタートから躓いたことになります。
そして、訴訟によって、何を求めているのかは、訴状の「請求の趣旨」に端的に記載されます。例えば、金銭の支払いを求める訴訟の場合、請求の趣旨は、「被告は原告に対して金100万円を支払え」という形で記載されます。
2 離婚訴訟で審理できないものを訴えてしまう
離婚訴訟で審理対象にできるものは、人事訴訟法で定められています。離婚訴訟で法律上、審理判断を行うことができるのは、離婚請求自体、子の親権者指定、子の養育費、面会交流、財産分与、年金分割です。
離婚に関係すれば、何でも離婚訴訟に取り込めるわけではありません。
しかし、弁護士が提起した離婚訴訟では、次のような失敗例が散見されるようです。
離婚に関連しているので、これらも含めて離婚訴訟を一緒に訴訟提起したいという気持ちは理解できますが、離婚訴訟の手続を定める人事訴訟法等を確認することが望まれるところです。
3 仮執行宣言が付けられない請求に仮執行宣言の申立てを行ってしまう
(1)仮執行宣言とは
まず、仮執行宣言とは、未確定の判決に対して、確定判決と内容上同一の執行力を与える裁判のことを言います。
例えば、上記の金銭支払い請求の訴訟で、「被告は原告に対して金100万円を支払え」という判決に仮執行宣言を裁判所が付けてくれた場合、本来は判決が確定しないと強制執行できないところ、仮執行宣言の効力により、判決確定前に原告は強制執行に入ることができます。
(2)離婚訴訟で、よく間違えがあるもの
離婚訴訟で離婚に伴う慰謝料(離婚自体慰謝料)と、財産分与について仮執行宣言を申立てる弁護士が多いと言われています。
昔からよくある間違いとして裁判所から指摘されているようですが、無くならないようです。
離婚に伴う慰謝料は、離婚によって発生します。そして、離婚訴訟で、離婚判決が確定してはじめて離婚となります。
そのため、離婚判決が確定しない限り、離婚に伴う慰謝料は発生しません。このことから、離婚に伴う慰謝料については、仮執行宣言が付けられないとされています。
また、財産分与は、将来に向けて形成されるもので、判決が確定しないと具体的な権利は形成されないことから、仮執行宣言が付けられないとされています。
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